神戸地方裁判所 昭和33年(行)7号 判決 1960年7月19日
原告 梅田振興株式会社
被告 神戸税関長
訴訟代理人 今井文雄 外二名
主文
原告の被告が昭和三三年九月一六日原告に対しなした税額金二三九、七六〇円を納付すべき旨の関税賦課処分の無効確認を求める請求を棄却する。
原告の前項の賦課処分取消の請求を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一項記載の関税賦課処分の無効であることを確認する、若し右請求が認容せられないときは右行政処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として左の通り陳述した。
一、被告は原告に対し、昭和三二年九月一六日主文第一項記載の関税賦課処分(以下単に本件処分又は本件課税処分という)をなしたが、原告は右処分について不服があつたので、昭和三二年一二月三一日被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和三三年一月二四日右審査請求は関税法所定の期間経過後になされたものであり、かつ右期間の延長を認めるべき何らの理由もないとしてこれを却下した。次いで原告は昭和三三年二月二三日大蔵大臣に右却下決定に対する訴願をなしたところ、同年三月二六日付で原告が犯則当時の本件自動車の所有者であり、かつ前記審査請求につき法定の期間を経過していることを理由に訴願棄却の裁決があつた。
二、しかし被告のなした本件課税処分は左記のとおり違法なものである。
(一) 被告は本件賦課処分を同日付の原告あて納税告知書をもつて通告してきたが、右納税告知書には如何なる根拠により、如何なる対象につき課税したか記載がない。被告の内部的意思決定としてはその根拠並びに対象が明らかであつたとしても、被告の課税処分は右納税告知書を原告に発することをもつてなされるのであるから、その表示行為において欠けるところのある不明確なものである。
なお、原告に対し昭和三二年一〇月二一日神戸税関徴収課長名義をもつて、右関税賦課処分は訴外久保田政男外二名の関税法違反事件に関連し、原告を一九五四年型キヤデラツクの右犯則事件当時の所有として該自動車につき課せられたものである旨の通知があり、ついで同年一二月七日右課長名義で右通知中一九五四年型キヤデラツクとあるのは一九四九年型キヤデラツクの誤りである旨通知してきたが、このような通知で前記処分の瑕疵を補正追完し得べきものではない。
(二) 次に右関税賦課処分は納税義務者でない原告に対し納税を命じた違法がある。
(1) 本件課税処分の対象となつた一九四九年型キヤデラツク(以下単に本件自動車という)はもと駐留米国軍人の所有であつたが、訴外の中国人某がこれを買受け、ついで訴外亡石部源治が譲受け、これを所有することとなつた。
(2) 原告会社代表者植中清は昭和二七年三月頃、右植中清個人で右石部から本件自動車を代金一五五万円(うち関税予定金三〇万円)で買受けてその所有者となつたが、石部は植中清の依頼した通関手続を履行しなかつた。
(3) 右植中清は本件自動車を自己名義に登録すべきものと考えていたが、同人の長男耕一はその登録名義をむしろ原告とすることがよいと考え、昭和二八年一二月一七日頃、原告会社から通関手続料として金五五万円を支出し、訴外中尾某に依頼して原告名義に登録がなされた。植中清は昭和二九年一月中頃本件自動車が原告名義に登録されたことを知つたがその頃原告会社の営業上の理由もあつて原告の所有とすることを承認した。
(4) 従つて本件自動車は昭和二九年一月中頃原告の所有に帰したもので、昭和二九年法律第六一号による改正前の関税法(以下これを旧関税法といい、右法律により改正されたものを新関税法という。)第八三条第四項にいう犯則当時原告は未だ所有者でなかつたにも拘らず原告を犯則当時の所有者としてなした本件処分は違法である。
(三) 仮に本件犯則当時原告が本件自動車の所有者であつたとしても被告の関税徴収権は本件課税処分当時既に時効により消滅している。
(1) 旧関税法第七条本文(新関税法第一四条第一項本文)により関税徴収権は二年の経過により消滅する。同条但書は関税逋脱、同未遂予備等の犯則事件のある場合には右二年の消滅時効の適用を排除しているが、右但書は関税納付義務者自身が関税逋脱を犯した場合を意味すると解すべきである。
(2) 仮に旧関税法第七条本文によらず、但書に該当する場合としても、本件自動車が原告会社代表者植中清に売却されたのは昭和二七年三月頃であり、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税等の臨時特例に関する法律(昭和二七年法律第一一二号)によつて本件自動車が輸入されたと看做される時期は、右時期ないしそれ以前であるから、本件自動車についての被告の関税徴収権は会計法第三〇条により爾後五年を経過した昭和三二年三月頃には既に時効により消滅していたものである。
三、以上のとおり被告のなした本件課税処分には重大かつ明白な瑕疵があるからその無効確認を求める。仮に本件処分が当然無効でないとすればその取消を求める。
被告の本案前の抗弁に対し左の通り陳述した。
一、原告のなした昭和三二年一二月三一日の審査請求が本件処分後一ケ月以内になされなかつたことは争わないが、前記のとおり本件処分が本件自動車に関するものであることは昭和三二年一二月七日の被告徴収課長名義の通知で始めて判明したものであるから旧関税法第六一条の一ケ月の起算日は右一二月七日と解すべきであつて、原告の審査請求を不適法なものというべきでない。
二、又、被告は不適法な請求として却下した審査決定のごときは行政事件訴訟特例法第二条にいわゆる訴願といえないというが、原告の大蔵大臣に対する訴願に対する裁決で、原告が犯則当時の本件自動車の所有者であつたか否かにつき実体的判断をしているから右の訴願と審査請求を併せみるときは訴願を経たと同様な効果を有すると解すべきである。
三、仮に右審査請求が法定の期間経過後のもので不適法であり、従つて訴願手続を経なかつたことになるとしても
(一) 原告は本件の納税告知以前に被告担当官と話合つた際同担当官は原告の本件自動車取得の経緯にかんがみ、関税の賦課につき考慮するとのことであつたから原告は課税がないものと信じていた。
(二) 本件課税処分後も、その対象並びに根拠が不明であつたから、被告担当官に問合せたところ、追つて文書で回答するとのことであつたからその回答を待つている間に審査請求の期間が経過した。
(三) しかも前記のとおり昭和三二年一〇月二一日の被告徴税課長の回答によれば原告の全く所有したことのない一九五四年型キヤデラツクが本件処分の対象物件と記載されていた。
以上の経過に徴するときは、原告が審査請求期間を徒過したこと即ち適法に訴願手続を経ずに本訴提起に及んだことにつき行政事件訴訟特例法第二条但書にいわゆる正当な事由があるものであつて、本訴は適法である。
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、
本案前の答弁として左のとおり陳述した。
原告は本件処分の取消を求めているが右処分については適法な訴願手続の経由がないから右取消の訴は不適法として却下すべきものである。即ち関税賦課処分に対し不服のあるものは処分を受けた日から一ケ月以内に審査請求をしなければならないが原告は本件処分につき昭和三二年九月一六日頃納税告知書の交付を受けたにもかかわらず、三ケ月以上を徒過した同年一二月三一日に至り審査請求をなした。被告は右審査請求に対し、法定の期間徒過につきやむを得ない事由がない不適法なものとして翌三三年一月二四日これを却下した。
ところで行政事件訴訟特例法第二条にいわゆる「訴願の裁決」とは適法になされた訴願に対する裁決を指すものと解すべきであるから、右のような不適法な審査請求として却下した審査決定のごときはこれに含まれない。
本案の答弁として左のとおり陳述した。
一、請求の原因第一項は認める。
同第二項(一)の事実のうち、原告主張の日に二回にわたり被告徴収課長から原告主張のような内容の文書を原告あて通知した事実は認めるがその余は争う。
同第二項(二)の事実のうち、本件自動車がもと第三国人の所有であつたこと、中尾寛が右自動車に関し関税逋脱の犯則事件を犯したこと、原告が原告名義で本件自動車の新規登録手続をなしたことは認めるがその余は否認する。
なお被告の原告に対する本件自動車についての関税徴収権は右中尾の関税逋脱犯則当時の昭和二八年一二月二五日から五年間で時効が完成するものであつて、本件処分当時未だ時効は完成していない。
二、被告が本件課税処分をなすに至つた理由は次のとおりである。
(一) 原告は昭和二七年末頃、当時自動車ブローカーをしていた訴外石部源吉の仲介で、訴外陳卓沐から本件自動車(一九四九年型キヤデラツク(原動機番号四九六二-八八六一五)一台)を代金一二五万円で買受け、当時引渡を受けた。
(二) しかし本件自動車はもと駐留米軍人の所有で関税免除物品であり、いまだ通関手続を経由していなかつたから原告は昭和二八年一二月初頃訴外中尾寛に通関手続を依頼し、中尾は更に訴外久保田政雄に右手続を依頼したところ、久保田は知人の中西繁男と共謀のうえ本件自動車に対する四日市税関支署の輸入免許書一通を偽造し、同年一二月二五日兵庫県陸運事務所において右偽造免許証を井上親雄名義の自動車新規登録申請書に添付して同事務所係員に提出行使し、同係員をして所有者を井上親雄とする新規登録を行わしめた。
(三) 右久保田及び中西の行為は旧関税法第七五条第一項の関税逋脱犯に該当し、本件自動車は同法違反の貨物であつて、犯罪当時から引続き犯人以外の善意の原告が所有かつ占有するものであるから旧関税法第八三条第四項により原告から関税を徴収すべきものである。
(四) よつて被告は原告に対し本件自動車の関税金二三九、七六〇円を賦課する旨の本件処分をなしたものである。
三、本件賦課処分には原告の主張するような無効原因となる瑕疵はないから、本件処分の無効確認を求める原告の請求は失当である。
(一) 関税賦課処分については、旧関税法第八三条第五項、国税徴収法第六条により納金額、納期日及び納付場所を指定した文書で納税人に告知すべきものとされておるにとどまり、法令上は賦課の根拠または課対税象を告知書に記載することを要しない。
(二) 前記犯則当時の本件自動車の所有者は原告であるから、本件処分に課税対象を誤つた違法はないが、仮りにそうでないとしても
(1) 原告は前記犯則当時本件自動車を既に一年以上も自ら使用し
(2) 原告は金五〇万円の通関費用ないし手数料を渡して前記中尾に通関手続を依頼しており
(3) 犯則当時自己名義に登録しておる事実があり
(4) 前記久保田らの関税法違反の刑事事件を審理した東京地方裁判所においても本件自動車の犯則当時の所有者を原告であると判示している
からこのような状況のもとで原告に対しなした本件処分には重大かつ明白な瑕疵があるものとはいえない。
(立証省略)
理由
一、被告が原告に対し納税告知書をもつて関税金二三九、七六〇円の納付を命ずる本件課税処分をなしたこと、原告主張の日に二回にわたり被告徴収課長からその主張のような文書が原告あて送達されたことは当事者間に争ない事実であり、又右納税告知書には右関税を賦課する根拠及び課税貨物について記載のないことは被告の明かに争わないところであるからこれを自白したものとみなされる。
原告は右納税告知書には課税の対象及び根拠につき記載がなく、本件課税処分はその表示行為において欠ける不明確なものと主張する。しかし、関税賦課処分をなすにあたつては旧関税法第八三条第五項、昭和三四年四月二〇日法律第一四七号による改正以前の国税徴収法第六条、同施行規則第一条により、納金額、納期日、納付場所を指定した納税告知書を納税人あてに発することをもつて足り、法令上課税の根拠及び対象を示すことは要求されていない。換言すれば右の課税根拠及び対象の記載は関税賦課処分(徴収機関における納税額の確定と納税者に対する納税の告知によつて有効に効力を生ずる)の要件ないし内容をなすものとはいえないのであるから右の記載のないことをもつて本件課税処分に瑕疵あるものということはできない。
二、被告が本件課税処分をなすに至つた理由が被告の本案に対する答弁第二項(一)ないし(四)記載のとおりであることは原告の明かに争わないところである。原告は本件自動車についての関税逋脱犯則事件当時たる昭和二八年一二月二五日の所有者は原告会社ではないと主張するので按ずるに、成立に争のない乙第一ないし第五号証、同第八、九号証、証人杉邨章一の証言によつてその成立が認められる甲第四号証の一ないし三並びに同証言、証人植中耕一の証言(後記措信しない部分を除く)及び原告会社代表者本人尋問の結果(前同)を総合すればば、
(1) 本件自動車は昭和二八年初め頃原告会社の代表者である植中清が同人の自宅で訴外石部源治から代金一二五万円で買受けたものであつたが、関税、物品税が未納ということであつたから通関並びに登録手続料として更に金三〇万円を手渡し、本件自動車の引渡を受けて使用していたが、仲介ブローカーに右通関等の手続料を詐取されたため、未登録のまゝ放置されていたところ、昭和二八年一二月初頃右石部から自動車ブローカー訴外中尾寛、中西繁夫、久保田政男らを紹介され、同人らの世話で本件自動車の通関手続を四日市税関でしてもらうこととなり、同年一二月二〇日頃右植中清の長男であり原告会社の取締役である植中耕一は右中尾らと連立つて本件自動車を運転して四日市に赴きその際右耕一は中尾らの求めに応じて通関料として金五〇万円を手渡したこと、
(2) その後数日たつた同月二五日右中尾により
兵庫県陸運事務所において本件自動車につき原告会社名義の登録がなされ(登録番号兵三-二一八四)、更に同日大阪陸運局に登録換申請がなされ翌二九年一月一三日同局に登録された(登録番号大三-九八四七)こと、
(3) 右植中清は昭和二八年初の本件自動車買受当時はその経営する原告会社の営業が不振であつたため、本件自動車を専ら自己の個人的用途に用いていたが、同年暮原告会社は天王寺方面に新しくパチンコ遊戯店を設けたため、そのころから本件自動車を原告会社の営業用に用いることが多くなつたこと、
(4) 原告会社備付の昭和二八年度の経理内容を示す会計帳簿には、その仮払金の項目に昭和二八年五月一日付で「前期繰越金一、〇〇〇、〇〇〇円」(借方欄)、その車輛運搬具の項目に昭和二九年三月一日付で「自動車(49キヤデラツク)仮払ヨリ振替一、〇〇〇、〇〇〇円」(借方欄)の各記載があるが、これは昭和二八年初頃から原告会社の経理を担当していた訴外杉邨章一が、右「前期繰越金」の性質は本件自動車の購入に関して原告会社社長の前記植中清が仮払金名下に借出したものであることを知り、同人や耕一と相談のうえ昭和二九年初当時、本件自動車が原告会社の営業用に使用されていたことにかんがみ、会計帳簿上も原告会社の資産となすべく振替記載したものであること、
をそれぞれ認めることができる。そうしてみれば植中清が昭和二八年初本件自動車買受当時は同人の個人所有であつたとしても、原告会社がその経営規模を拡大し、本件自動車を会社の業務に用いるようになり、その通関料を仮払金名下に会社から支出し、原告会社名義で登録した同年一二月二五日当時には本件自動車の所有権は右植中から原告会社に譲渡されていたものと認めるのが相当である。右認定に反する証人植中耕一及び原告会社代表者本人の各供述部分はいずれもこれを措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。のみならず右認定の各事実に加えて、成立に争ない乙第一ないし第三号証に明らかなとおり前記中尾に対する関税逋脱事件についての刑事裁判において右と同様の認定がなされ、又昭和三二年四月一〇日植中清は右裁判の審理にあたり証人として本件自動車の購入者は当初から原告会社である旨証言をしていることでもあり、更に道路運送車輛法による自動車の登録が、その所有者についての公証であることを併せ考えるなら、仮りに植中清が個人として所有権を自己に留保しており、被告がこれを看過したとしても、これをもつて本件処分に附著した外観上明白な瑕疵即ち本件処分を当然無効とすべき事由ということはできない。
三、次いで原告の消滅時効の主張について判断する。
(一) 先ず本件関税徴収権の消滅時効の起算日につき争があるが、旧関税法第八三条第四項により貨物の所有者から関税を徴収すべき場合において、その徴収権の発生するのは当該貨物について関税逋脱犯等の犯則事件の行なわれた時であると解すべきところ、本件自動車についての関税逋脱の犯則時は成立に争ない乙第一ないし第九号証によつて認められるとおり、前記中尾が久保田らと共謀のうえ、偽造通関書類を兵庫県陸運事務所に提出行使して本件自動車の登録を受けた昭和二八年一二月二五日であるから、本件関税徴収権は右の日に発生したものであり、それをもつて消滅時効の起算日と解すべきである。(なお付言するなら前記昭和二七年法律第一一二号第六条第一二条により輸入とみなされ関税法等の適用を受けることとなつた場合、その自動車が転々と譲渡されたとき、いずれの譲受も輸入とみなされると解されるが、その譲渡行為自体は違法でなく、譲受後何らかの不正手段を用いて関税の支払を免れる行為があつたときはじめて関税逋脱罪を構成するものと解せられるから、右輸入とみなされる時期が時効の起算日であるとする原告の主張は理由がないものである。)
(二) 又旧関税法第七条は輸入貨物が輸入後国内において転々流通することにかんがみ、関税の徴収権もその不行使が続く場合はその事実を尊重することにし、会計法第三〇条の国家の債権債務の時効期間五年に対する例外的短期消滅時効を定めたものであることは原告主張のとおりであるが、同条但書は関税逋脱等の犯則事件のあつた場合は関税徴収権の有無の確定並びにその行使が容易でないことから更にその例外を設けたものであり、その理由は被徴収者が旧関税法第八三条第四項により犯則当時の貨物所有者である場合も異ならない。従つて被告の原告に対する本件関税徴収権は右但書により本文の適用を受けず、会計法上の原則に従い、五年間これを行わないとき時効によつて消滅するものといわねばならない。
然るところ、本件課税処分はその時効完成前である昭和三二年九月一六日になされたものであることは前記のとおりであるから、被告の本件関税徴収権が右五年の時効にかかつたものということはできず、この点についての原告の主張は失当である。
四、以上のとおり、本件課税処分には原告の主張するごとき違法があるとは認められず、原告に対する被告の本件課税処分は正当であつてこれを当然無効と解すべき根拠は存在しない。
五、ところで原告が本件課税処分の取消を求めるには須らく旧関税法第六一条以下の規定により審査の請求及び訴願の手続を経るべきところ、
(一) 原告のなした昭和三二年一二月三一日の審査請求が本件課税処分の一ケ月以内になされたものでないことは原告の自認するところであり、同年一〇月二一日「徴税理由の回答について」という文書が、同年一二月七日には「訂正通知について」という文書が、いずれも被告徴収課長名義で原告に送達されていることは被告の認めるところであるが、右各通知をもつて本件課税処分の補正、追完と解することができない以上、原告主張のように右の訂正通知のあつた昭和三二年一二月七日をもつて審査請求期間の起算日と解する理由はない。
(二) 又原告は適法に審査請求がなされなかつたことについて正当な事由があると主張するが、その事由は要するに本件課税処分に課税理由が記載されていなかつたことと、前記昭和三二年一〇月二一日の被告徴収課長の通知に課税対象は一九五四年型キヤデラツクである旨記載した誤があつたというものであるところ、
(1) 被告が納税告知書に課税対象及び課税の根拠を記載すべき法律上の何らの義務も認められないことは前示のとおりであるばかりでなく、成立に争ない乙第二、三号証及び証人植中耕一の証言によれば、原告会社代表取締役植中清、同会社取締役植中耕一の両名はいずれも右納税告知書が原告に送達される以前、本件課税処分の前提となつた前記本件自動車に関する関税逋脱犯則事件につき、参考人又は証人として取調べに応じており、神戸税関における取調べの際には、原告会社に対し関税賦課処分が行なわれるかも知れないことを告げられ、右両名が神戸税関徴収課長にその免税方を依頼に赴いている事実が認められるのであつて、本件処分当時、その根拠及び対象は原告において当然了知し得べき状態にあつたものと解せられ、
(2) 又前記のように本件処分のなされたのが昭和三二年九月一六日であり、その頃原告に通告されたのであるから、右の同年一〇月二一日の通知があつた当時は既に審査請求期間を経過した後であつて、右一〇月二一日の通知に一九四九年型キヤデラツクと記載すべきを一九五四年型と記載した誤は原告の審査請求期間の徒過に影響を及ぼすものということはできない。従つて右はいずれも法定期間経過後に審査請求がなされるに至つた正当な事由となるものとは認め難い。
そうしてみれば、原告の本件処分の取消請求は法定の審査請求を経ていないものであり、かつ、右の手続を経ないことにつき正当な事由が存するものということはできない。そして審査請求につぐ訴願裁決庁たる大蔵省が右の審査請求の方式の瑕疵を指摘しているほか実質的な不服申立理由(犯則当時の本件自動車の所有者)について判断しているからといつて右の瑕疵が治癒され、適法に訴願を経たことになると解する余地はないのであつて、右のような訴願裁決の存することは右の結論を左右するものではない。
六、然らば原告の本訴請求中、本件課税処分の無効確認を求める部分は理由がないものとしてこれを棄却すべく、その取消を求める部分は不適法としてこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 小泉敏次 前田亦夫 大石忠生)